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後日、椿の借りている部屋を調べるとたしかに金塊が無造作に置かれていた。
金庫に入れてあるでもなく、ただ運んでそこに投げ捨てられているかのように見えた。
やはり、金塊を欲しがってたわけではないようであった。
病院で目を覚ました椿に元斎と私は面会した。
「すまなかった。もう少しはやくワシが気がついて居れば…。」
元斎はすまなそうにそう言った。
「何のことです?」
「お前が大事にしていたものをお前自身の手で壊すのはさぞ辛かっただろうと思うてな…。」
椿はそれを聞いて雷に撃たれた様に身体を震わせると、わなわなと顔を覆って泣いた。
しばらくして。
「お世話になりました。」
そう顔を覆ったまま消え入りそうな声で言った。
それを聞いた元斎は首を振った。
「いや、大儀だとは思うがもうしばらくやってくれんかの…まだ桜だけでは無理そうじゃて…。」
椿は驚いた顔をして元斎を見た。
口をパクパクして何か言いかけたが言葉にならなかった。
「あ、そうじゃ、この際、籍でも入れるかの?そうすれば、バカ息子も二度と勘違いするまい?」
そう言って元斎が呵呵と笑う声が病室に響いた。
私はそれを聞いて事件の顛末に安堵したが、直ぐに踵を返すと署にもどらなければならなかった。
窃盗犯を取り逃した始末書が残っていたのだ。
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