プロローグ

2/2
10人が本棚に入れています
本棚に追加
/74ページ
 その日、如月 葵は『とある人物』に呼び出され、 指定の場所に、指定の時間に来ていた。  場所はLCアカデミーの図書館の裏。時間は放課後。人気のないところに来た葵の心臓は高揚していた。理由はただ一つ。一昨日、寮のポストに彼女宛に届いた手紙。 『如月 葵さん 貴女のことをお慕いしております。是非とも、直接お逢いして気持ちを――』  冒頭にそう書かれた手紙。これはラブレターではないか、と葵は即座に理解した。そして、ついにこのようなイベントが来た、と感動したものだ。  今までを振り返れば、男勝り、という表現が性格ではなく、自分の人生ではないか、と思うぐらいに周囲に巻き込まれ闘いの日々だった。胸のドキドキも恋愛、というより、命の危機の方が多かった。  それが自分『も』ならば納得はいくが、幼馴染みのケイトとユイは両思い。学園に来てから友達になったフェイトも獅子神 玲央先輩から熱烈なアプローチを受けている。幼馴染みのレミーはそういうのとは無縁そうだが、ユイのルームメイトのコルドアとは空気が合うのか珍しいことに一緒にいても違和感がない……恋愛に発展するかは解らないけど、可能性はゼロではない。九頭はとりあえず置いておく。  というわけで、葵としては周囲も同じような青春を過ごしていると思いきや、しっかりと恋愛イベントも発生しているのだ。つまり、彼女としては納得がいかない。  そんな中で届いたラブレター。高揚しないわけがない。 ――もう指定の時間だけど。  手紙に書いてあった指定の時間。その時間から五分が過ぎた。  もしかしたら友人がしかけたドッキリだろうか、と葵は考えた。同時にそうだった時、彼女は友人であろうと全力で殴ることを決めた。  その時だ。 「き、如月 葵さん……」  聞き覚えのない声が聞こえ、その方向を慌てて見た。聞き覚えのない声だから嬉しく思ったのも束の間――葵は愕然とした。  そこには長い綺麗な黒髪を後ろで結い、小柄な着物に身を包み、刀を大事そうに抱いている美しい女子がいた。  少し細い目の彼女は頬を赤らめ、こう言った。 「如月 葵さん――私は貴女のことをお慕いしております!!」 「…………はぁ?」
/74ページ

最初のコメントを投稿しよう!