空気

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空気

私立大学入試がどこも終わり、国公立組の入試を待つかのように、俺のクラスはどの授業も自習になることが多くなった。 自習なんてのは有名無実なもので、実際は生徒が好き勝手喚き散らす、クラスの無法地帯化を指す言葉だろうと、辞書を引かずとも大凡の見当はつく。 などと言いつつも、俺もその無法地帯化に加担するうちの一人だった。 「明日世界が終わるとしたら、どうするか」そんな阿保なことを言い出したのは坂本だった。その一言を発端に、話題は一挙にそっちへ傾いた。 大学入学を二ヶ月後に控えていようがなんだろうが、高校生というものは馬鹿な生き物で、誰かがこんなことを言い出した。 「露出がしてみたい」 教室が爆発したように笑いに包まれた。 こうなるともう手のつけられない大喜利大会の始まりだった。 「万引きをする」 「そんな程度の低いのは求めてねえよ。おれは銀行を襲う」これも十分程度が低い。それでも皆がゲラゲラと笑った。 「ならおれは、教室の真ん中で、お前達の目の前で脱糞してやる」 「地球が終わる日に誰が学校に来るんだよ」 「僕は強姦をするぞ」誰かが威勢良く叫び、教室は静まり返った。これ以上に悪虐非道の宣言がこの世にあるかと思われるほどだった。 しばらくして、俺の隣の席の高本がポツリと呟いた。 「俺は、最後の日もみんなと変わらずにこうやってクラスで馬鹿なことを言い合いたいなあ」 そしてまた沈黙が続いた。そして沈黙の中、その場の全員が、たとえ明日が地球最後でも、制服を規則どうりに着て、授業の用意を一式用意して学校に来よう、と強く心に刻んだ。 しばらくして、誰かが呟いた。 「いや、違うだろ」 終業のチャイムが鳴るまでの三十分間、クラス全員が死ぬんじゃないかと思うほどに、大声をあげて笑った。
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