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「話せたのはよかったけど、逆井さん……一回も笑わなかったな」
嫌われてるってわけじゃなさそうだけど、楽しそうではなかったように見えた。
そりゃ、今日は始業式で、これから高校生活に馴染んでいくところだから誰しも緊張していて当たり前なのだけれど、それにしたって堅苦しい。
でも、同い年の女の子であることには変わりない。たとえ相手が寮生だからって関係ない。逆井さんはクラスメイトだ。仲良くなれば、きっと笑ってくれる。さっきは出せなかったけど、きっと友達にもなってくれる。
お花畑がなんぼのもんですか。寮生と妖精と聞き間違えちゃったのは八千恵のミスだけど、メルヘン趣味なのもポジティブ思考なのも別に悪いことじゃない。
この出会いにはきっと意味があるはず。
八千恵はそう意気込んで、足下の小さな花たちに語りかける。
「わたしもあなたたちみたいに、逆井さんに興味を持ってもらえるようになるんだから」
それと同時、いきなり強い風がびゅんと吹いて、八千恵の髪とスカートを大きく靡かせた。
膝丈のスカートよりも、気合を入れてセットしてきた髪の毛を守るために両手で頭を抑えて植え込みの陰に避難する。
髪型を整え、顔をあげると、八千恵の視界の片隅に、今まで気づかなかったものが映り込んだ。
(向こうにも何か建物が……)
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