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植え込みの陰から裏山のほうを見やると、凛花寮とは別にもう一つ洋館風の建物が見えた。花園から出ずにたどり着けそうだが、入り組んで生えた大小さまざまな庭木と、背の高い生垣のせいでどう行けばいいかはわからない。
まるで、迷路に阻まれているかのようである。
「学校案内には載っていなかったと思うんだけど、なんだろ? あとで逆井さんに訊いてみよう」
腕組みをしたついでに時計を見ると、もう始業十分前だ。
そろそろ教室に戻らないと始業式からいきなり遅刻者として悪目立ちすることになる。
八千恵は大慌てで逆井さんの後を追って走り出す。
「あれ……?」
そのとき、あの謎の建物の窓から視線を感じた。
二階の窓から、誰かがこちらを見ていたような……。
「気のせいかな?」
振り返っても誰もいなかったので、八千恵は特に気にせずその場をあとにした。
不思議なことに、八千恵がどれだけ走っても前方に逆井さんの姿はなく、来たときよりもずいぶんと早く校舎裏のお庭に出ることが出来た。
近道したつもりはなかったんだけどな、と八千恵は首を傾げながらも、昇降口へと急いだ。
――秘密の花園で、オキザリスの花が風に揺れ、春の到来を告げた。
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