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2 でこぼこコンビ
始業式の翌日。今日からいよいよ授業が始まる。
一時間目は数学。二時間目は英語。八千恵の苦手科目が二連続する嵐の水曜日だが、対策は講じてある。
しょっぱなから恥ずかしい思いをしないようにと、数学と英語だけは最初の練習問題まではしっかりと予習を済ませてきたのだ。これでいつ当てられてもバッチリ答えられる。
(高校生になったわたしはひと味もふた味もちがうのよ)
神林八千恵の高校デビューが、いま始まる!
「……って思ってたんだけどなぁ」
やってしまった。八千恵の高校デビューはいきなり窮地に追い込まれた。
八千恵が今いる場所はトイレであり、時刻は午前八時三十五分から四十分のあいだ。
既に予鈴が鳴ってみんなバタバタと教室に戻っていったので、そろそろ朝のホームルームが始まる頃である。
ひとりトイレに取り残された八千恵は、教室へ戻るに戻れないこの状況にとても焦っていた。
「予習に夢中で忘れものチェックを忘れちゃった……」
で、忘れものチェックを忘れてしまったことによりこの場に忘れたものは、ハンカチである。
ティッシュやハンカチを忘れることはよくあることだ。ポケットからハンカチを出す前に手を洗ってしまうのも、八千恵ならまあよくある。そのぐらいじゃ焦ったりしない。
しかし、この日の八千恵はいつもとひと味もふた味も違ったため、何を考えたか手を洗った勢いで顔まで洗ってしまったのだ。これでハンカチなしはきつい。手は髪の毛でなんとかするとして、顔はどうしよう。
出来るだけ手で顔の水滴を拭き取って、八千恵は鏡とにらめっこ。みっともなく濡れた八千恵の顔が鏡に映っている。
――それから、髪の長い女の人が、トイレの入口にぼーっと立っている。
「うひゃあ!? おばけ!」
「失礼ね。誰がお化けよ」
「おばけがしゃべった!」
「神林さん、いい加減にしないと怒るわよ?」
おばけの正体は逆井さんだった。
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