4人が本棚に入れています
本棚に追加
昨日に引き続き、なんでこう恥ずかしいところばかり見せちゃうんだろう。という後悔は先にたたず。大口を開けたまま硬直した八千恵は、油の切れたブリキの木こりみたいにこわばった顔をぎごちなく元のかたちに戻していく。
「いつまでも何をしているの? もうみんな席に着いているわよ?」
「いやぁそれが、ハンカチを忘れちゃって」
「まあひどい顔。髪まで濡れちゃってるじゃない。あなたのほうがお化けだわ」
「えへへ、思いっきり顔を洗ったあとに気づいたからね」
「よかったらこれ使って」
逆井さんはポケットからハンカチを取り出して、八千恵に差し出した。
「いいの?」
「構わないわ」
「じゃあ、お言葉に甘えて」
水遊びをしたあとの犬みたいに豪快に濡れたこの首から上をどうしたものかと、ワラにもすがりたい気持ちだった八千恵は、逆井さんのハンカチでまず顔を拭いた。
他人のハンカチで顔を拭くなんて気が引けるけど、背に腹は替えられない。唯一の救いは、逆井さんのハンカチが黒の無地だったことだ。これで純白のレース付きなんて渡されたら、やっぱり髪の毛で対処しますとお断りを入れたであろう。
(いい匂い……)
ハンカチから漂う花の香りにうっとりと鼻の下を伸ばすと、逆井さんがまた眉間に皺を寄せたので慌てて手を拭いて、返した。
最初のコメントを投稿しよう!