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「わたし、立候補します!」
高校生になったら背が伸びる。そんな期待を込めて買ったやや大きめのボレロの袖口から何とか手首が見えるくらいに、八千恵はせいいっぱい手を伸ばした。
「わたし、凛花の中じゃ成績はあんまり、っていうか全然よくないけど、中学のとき生徒会役員やってました! これ、正当な理由になるよね?」
おお、と再び一年一組が元気を取り戻す。
全員が八千恵に注目し、なぜだかぱらぱらと拍手の音まで聞こえてきた。
「いいでしょう夕花ちゃん? わたし、夕花ちゃんのお手伝いがしたいの」
「そ、それはもちろん構わないけれど」
「じゃあ決まりね」
ずんずんと前に出る。
そして黒板前の段差につまずいて転ぶ。
「いたい」
ウケを狙ったわけじゃないけれど、クラスのみんなは笑ってくれた。
へーき。このぐらい別になんともない。
夕花ちゃんの手から半ば強引にチョークを奪って、黒板に自分の名前を書く。
副
委
員
長
神
林
八
千
恵
「あいだ空きすぎちゃった。夕花ちゃん『副委員長』って書く位置高くない?」
「そうかしら?」
「高いよ。もっとバランス考えなきゃ」
「椅子使う?」
「へーき。これでいい」
「なら、せめてもっと丁寧に書いたら?」
「書いてるよ。チョークだとこうなっちゃうの」
二人のやりとりを見て、みんな大笑いだ。
上野先生まで笑ってる。
「神林八千恵です。かんばやしっていうのは言いづらいと思うので、八千恵って呼んでください。背が小さいので小学生に間違えられますが、みなさんと同じ高校一年生です」
八千恵はそのまま夕花ちゃんに代わって、ホームルームの進行役を務めた。夕花ちゃんには「わたしじゃ届かないから」という理由付きでチョークを渡して、書記を担当してもらった。
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