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お金持ちの家の娘が多く集まるこの凛花学園では、お淑やかでお上品なお嬢様というのはそれほど珍しくもない。
だが、あの美女のように、立ち居振る舞いだけで見るものの心を奪う生徒はそうそういない。指通りのよさそうな長い黒髪にも膝下まであるスカートのプリーツにも一切の乱れはなく、背筋をまっすぐに伸ばし凜然と歩くその姿は、とても女子高生とは思えなかった。
(朝からいいものを見ちゃった。早起きは三文の得って、本当なのね)
駅から直通のバスで二十分ほどのところにあるこの凛花学園は、小高い丘と深い森に囲まれた山裾にある。中等部と高等部がそれぞれ別の敷地にありながら、不慣れな人が徒歩で移動すると迷ってしまうほどの広大な敷地面積を誇る、大学顔負けの女子高である。
八千恵はこの日、早起きついでに凛花学園の広大な敷地内を見て回ろうと、校舎裏のお庭の奥まで足を踏み入れた。はじめは行き止まりかと思ったが、レンガ造りの塀のそばに開け放たれた門があるのを見つけた八千恵は、誰にも見られていないことを確認したあとそこをくぐった。
その先に、綺麗に刈り込まれた庭木に囲まれた花園が広がっていたというわけである。
その花園があまりに立派だったものだから、念のため立ち入り禁止の看板なんかも探してみたけれど、それらしきものは見当たらない。気がつけば八千恵は、校舎から随分と離れたところまで来ていた。
おそらくここは敷地の外れ。しかも校門とは逆方向なので、普通の生徒はまずこんなところまで足を運んだりしないだろう。事実、八千恵も入学式のときには気づかなかった。
まさに秘密の花園。お庭の奥に広がるその花園には、凛花学園の制服を着た花の妖精が住んでいたのだ。
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