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妖精といえば、お花の周りをぱたぱたと飛び回り、困ったときには魔法の粉を振りまいて何とかしてくれる、可愛くて頼もしいペットのようなイメージがあるが、八千恵が見た妖精はもうちょっと、いやぜんぜん大きかった。身長百四十八センチの八千恵が彼女の隣に立てば、大人と子どもが並んでいるように見えるだろう。
(きれいな人……こっち向いてくれないかなぁ)
真新しい制服に身を包んだ淑女が、色とりどりの花の中、石畳をゆっくりと歩く姿はまさに妖精。
始業三十分前のゆとりあるこの時間に、誰もいない花園で一人静かに時を過ごす彼女は、足下に咲いた小さな花たちにご挨拶するために、丁寧に膝を折ってその場にしゃがみこんだ。髪を手で払うしぐさが妙に艶っぽくて、思わずドキリとしてしまう。
「何をじろじろ見ているの?」
びっくりして思わず「ひゃっ」と素っ頓狂な声をあげてしまった。
妖精さん、もとい黒髪の美女は唐突に八千恵に話しかけてきた。
気づかれているとは思わなかった。さすがに凝視しすぎただろうか。
「ご、ごめんなさい!」
八千恵が慌てて覗き見していた非礼を詫びると、黒髪の美女は音もなく立ち上がり、八千恵に向き直った。 細長く、すらっとした体型。長い黒髪が包むのは、陶磁器のようになめらかな触り心地を想像させる白い肌。
まさに頭のてっぺんから足の先まで完全無欠の美人さんが、八千恵を見ていた。
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