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「わ、わたし神林っていいます。一年一組の」
「知っているわ。クラスメイトの顔と名前は全員覚えたから」
「クラスメイト?」
八千恵は、思いがけない一言に目を瞬かせた。
「わたしと同じクラスなんだ?」
「まだ入学したばかりだもの。覚えてなくて当然だわ」
「ごめんなさい。まだ顔と名前が一致してないみたい」
「逆井夕花よ。神林八千恵さん」
さかさい、ゆうか。
初対面のはずだけど、この名前には聞き覚えがある。
「さかさい……さかさいゆうか……あっ!」
思い出した。
確か、入学式の日にクラスメイトたちに囲まれて質問攻めにあっていた人だ。女子校なのに入学式の日から取り巻きができるなんてすごい人だなぁって思っていた。
「そうだ逆井さんだ。わたしの斜め前の席だよね? 入学式のときとはちょっと雰囲気が違っててすぐに気づかなかったよ。朝だからかな?」
と、八千恵がすぐに気づけなかったことの言い訳をすると。
「確かに朝は苦手だけれど、そんなに寝ぼけた顔はしてないつもりよ」
逆井さんはわずかに顔をしかめてそう言った。
「ちゃんと顔は洗ってきたわよ?」
「寝ぼけてるとか、そういうんじゃないの。気を悪くしたらごめんなさい。ちょっと雰囲気が違うなぁって言いたかったのよ。ほら、ここ花園だし、教室にいるときとは美しさが違うって感じ。なんていうんだろ……神々しい?」
「あいにく私は神々しいと呼ばれるような人間ではないのだけれど、あなたの言いたいことはなんとなくわかったわ。ありがとう」
逆井さんは八千恵の語彙力と表現力のなさをカバーしつつ、八千恵の気持ちをくみ取ってくれた。淡々とした表情で感謝の言葉を述べる逆井さんには、全くが隙がない。
やっぱり、凛花に通う子って少し違うな。と八千恵は改めて思う。
近づきがたいとか話しづらいとかそういう悪い意味ではなく、いい意味で。
格好いいし、綺麗だし、絵本の中から飛び出してきたみたいな、八千恵の憧れる女性像。それが同い年の子にあるものだから、せめて見た目だけでも近づけないかと考えてしまう。
そう、たとえばその身長とか、胸とか。
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