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「神林さんはどうしてここへ? 道に迷ったというわけではなさそうだけど」
「ほとんど迷ったに近いかな。早起きしたからちょっと探検しようかなって」
「探検?」
「うん。探検」
「散歩ではなく?」
「お散歩っていうのは知ってる道ををワクワクしながら歩くこと。探検っていうのは、知らない道をドキドキしながら歩くこと。この違い、わからない?」
「いいえ、全くわからないわ」
逆井さんは相変わらずの淡々とした口調で、八千恵の共感を求める言葉を突き返した。
「神林さん。あなた、変わってるわね」
逆井さんは眉間に皺を寄せて、もう一度だけ「……探検?」と疑問を反すうさせた。そんなにおかしかったのだろうか。
「凛花って有名な私立校だし、古い建物や施設もけっこう多いじゃない? 歴史を感じるものって、だからつい探検したくなるでしょう。これ、外部入学生ならみんなそう思うんじゃなかな」
と、八千恵がもう一度だけ共感を求めてみると。
「いいえ、ならないわ」
もう一度ばっさりと否定された。
「なら逆井さんは、こんなところで何をしていたのよ?」
「何って、教室に向かっていただけよ。私はここを通っても校舎へは行けるから」
ちょっと待った。ここを通っても校舎に行けるですって?
いやいや、それは無理があるでしょう。
と、八千恵は心の声でこっそりと意義を申し立てる。
この花園は、校門からはかなり離れている。それも校舎を飛び越えた先にあるので、教室に向かうというのならどう考えても「回り道」だ。通り道じゃない。
八千恵だって、校舎裏のお庭を奥へ奥へと進み、ようやくこの花園へと辿り着いた。おそらくここは敷地の北端で、つまり南端にある校門とは校舎を飛び越えて真逆の方向。すぐそこに裏山も見えることから、この距離感と位置関係はほぼ間違いない。
これを「通学路」と言い張るのは、いかがなものであろうか。
と八千恵は思うのであった。
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