1章……見ないで

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「おかえり…随分遅かったね」 「うん…チームの後輩の相談受けて…飲んできた」 「そか、お疲れ様」 顔をあげた岳人の目を見た瞬間、あのざらついた女の声が頭の中に響く 『あ…岳人さん…』 (やめて…) 「あれ?素っぴん?珍しいね…それとも具合でも悪いの?…顔色悪いぞ…」 立ち尽くす私に岳人が近付く いつものように優しい声音、キラキラとした優しそうな瞳 いつもならそれに癒されて安心して腕の中に飛び込んでいくのに それなのに… (身体が動かない) 「茅乃?」 「少し飲み過ぎたかな、シャワーしてくる…」 岳人が私の顔を覗き込もうとした所で、身体をやっと動かして浴室に逃げ込んだ シャワーを勢いよく出して身体に当てれば、涙がボタボタと流れる 「うっ……っ…ん…」 苦しくて声が出る それでも一頻り泣いて、気持ちを立て直してから浴室を出た 部屋着に着替えてリビングに行くと岳人はまだ起きていた 「茅乃…おいで」 岳人がこうして私を呼ぶ時は…抱きたい時 (貴方はさっき女を抱いたわよね?その手で私を?) 私は首を振る 「今日は…ちょっと…」 すると岳人は立ち上がり強引に私の手を引いた 「茅乃は拒否なんて…しないよな?」 「や、やめて…」 また頭に響くあの水音… 「茅乃…愛してるよ」 強い力にソファーに押し付けられた身体が開かれていく 「っや…」 指が服を捲り上げ、岳人の指が肌を這う 「愛してるよ……茅乃…」 『愛してるよ』 …なんて空虚な響き いつもは震えるほど嬉しいのにまるで響かない (貴方は私を愛してなんていないくせに) 嫌なのに、他の女を抱いた汚れた指で私を触れる岳人が憎いのに 身体が反応してしまう 「ん…素直…ほら、可愛い…」 そう言いながら岳人が唇を舐めてこちらを見下ろした 「ぃや……」 胸の飾りを唇で弾かれ、脚の間を指が這い… 快楽に沈められようとしたその時、ガタガタっ 鞄からスマートフォンが飛び出して床でバタバタと暴れた
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