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二人であとは無言で天丼を食べる。その頭の中には、なぜ?どうして?あんな事を?そんな疑問だけが響いていた。
もしかしたら無理矢理美咲ちゃんから迫られて?いや、岳人に限ってそれはない。
岳人が求めなければ女性はあしらわれるだけだ。
「あ、岳人…ゴミ…」
耳の上に糸屑のようなものが見えて思わず呟く。
「取って」
「うん…っ!」
そこで気づかなければ良かったのに岳人の首筋…耳の裏の下に赤い痕があるのを見つけた
(こんな所に…)
自分からは見えない場所に付けられている、その意味は……
(宣戦布告)
妙に静かな怒りがこみ上げ、岳人をジッと見た
「毎日残業なの?暫く」
「んー遅いかもなぁ、課長職ってみんなが帰ってからが仕事多くてさ、まだまだ出世したいし、二人の為にも」
「……」
二人の為にだなんてただの気まぐれの浮気なんだろうか?
それでも、違う女をしかも私も知っている後輩を抱くなんてやっぱり嫌悪感しかない
そんな風に思っていると席の近くに高塔くんが来た
「あれ?茅乃さん、ここ珍しいですね?お疲れ様です」
「お疲れ様、たまにはね」
高塔くんは岳人に頭を下げた
「後輩くんかな?」
岳人は私の髪を耳にかけながら言った
「茅乃さんの部下の高塔奏です」
「うん、チームの一人。高塔くんこちらは…」
「存じ上げています、営業部課長の條島岳人さん…茅乃さんのご主人ですよね…」
「へー、俺有名かい?…いつも茅乃がお世話になってるみたいだね、有り難う」
「いえ、私が一方的にご迷惑を掛けていますから…」
一瞬、高塔くんが視線をこちらに走らせた
(何?)
「茅乃さん、体調は大丈夫ですか?…あまり無理しないでくださいね…ぶつけた耳も痛そうだし…じゃあ席に戻ります、條島課長お邪魔しました」
「有り難う…」
耳朶を朝噛んだ張本人は涼しい顔でそう微笑んで、もう一度こちらを意味深な目で見た
(やめて…)
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