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「…行かないわよ」
「なぜ?」
高塔くんの綺麗な目が水に濡れたように潤み…廊下の灯りを反射する
「こんな顔で出られない…」
尤もらしく言ってみたけれど…本音はこれ以上惨めな自分になりたくなかったのだ
「茅乃さんいつもと変わらず綺麗ですよ…あぁ…違うか…」
「…お願い、見ないで……」
顔を隠すように覆ったハンカチごと高塔くんが手首を掴んで外した
「違う……素敵なのは変わらないけど、化粧っていう武装が取れてて…可愛い、かな…その顔もオレは好きですよ」
高塔くんは綺麗な榛色の目を細めて、口許はわざとらしい程可愛く引き上げられている
(その顔で『好き』なんて簡単に言わないで…からかわれたと分かっていても、ドキドキしちゃうじゃない)
「キスしたくなる…」
手首を抑えられたまま、高塔くんが顔を近付けるから首を動かしてそれを避ける
「や、やめて…からかわないで」
(こんなおばさん、からかわないでよ)
すると高塔くんははぁ…と息を吐いた
「ま、いいや…行きますよ?助けたんだから御礼だと思って奢ってください…大体…すぐ、帰れるんですか?」
痛いところを突かれた
確かにこのままの辛い気持ちで岳人も帰る家に帰れるかと言われれば…
(答えは否だ…)
「分かったわ…」
「行こう…茅乃さん」
差し出された男性にしたら小さめで白い手
さっき引かれた時は
…なぜかとても大きく温かく感じた
揺れる榛色の目が私を捉え
繋がれた手に身体が痺れる
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