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連れていかれたのは薄暗い居酒屋だった
隠れ家のような入り口を潜ればざわついた雰囲気に気持ちが楽になる
「ここ全部個室だから気兼ねなく、ね?」
「そう…」
…誘いなれてるってわけね
結婚してから部署が異動になり、私は主任に昇格して何人かの部下を持った
彼もその一人、3年前に入社した高塔奏(たかとう かなで)くん
色白で身長もあまり高くなく細いので華奢に見える
眼鏡を掛けていていつも表情をあまり動かさないクールな男の子で…
配属されて3年、仕事は早いしとても優秀だけれど地味で何を考えているかイマイチわからないなんて思っていたけれど…
案外女性の扱いに慣れているようだ
横開きの扉を開いて部屋に入ると入り口側に座る
高塔くんがフッと唇を僅かに歪めて笑った
「警戒してます?」
「何の話?」
図星だったので妙な焦りを感じたけれど、それを誤魔化すように鞄を覗く
…そこで岳人とお揃いで買ったキーケースが目に入り気持ちが落ち込む
もう夫婦関係は岳人にとっては破綻していたんだ…気付いていなかったのは私だけ…上手くいってるだなんて幻想だったのだ
「茅乃さん、ビールでいいですか?」
「ええ…」
注文し、座った高塔くんがおしぼりで手を拭いて視線を落とす
その綺麗な鼻梁に見とれてしまう
(こんなに綺麗な子だった?)
近くでしっかり顔を見たのは初めてだったかもしれない
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