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祈るように奏を抱き続け長い時間を感じて……
やっとのことで救急車がやって来た
「あとはオレが行くから…」
社内から飛び出してきた福田課長と救急救命士に託してそれを見送ると
好奇の眼差しが突き刺さる中、身体を引きずるようにして社内に入る
「茅乃さん…」
エントランスにきた部下が近づいてきて、袋に入ったタオルを手渡してきた
「取り敢えずそれ…洗った方がいいです…」
「…ありがとう」
確かに奏の血で赤黒く手が染まっている
手を洗い…流れてくる涙をそのままにエントランスに戻ると…外出から戻ったらしい社長が駆け寄ってきた
「茅乃、事情を話せるか?」
「…私の分かる範囲でしたら…」
「そのまま車で病院に移動するから着替えてこい」
バサッと渡されたのは女性もののスーツ…
「畏まりました」
急いでトイレで着替え、車に乗り込み向かう間に事情を話す
「そうか…先程電話がきた…予断は許さないが一命をとりとめたそうだ」
と呟くと何も言わなかった
病室に向かうと…廊下に福田課長が居て
青ざめた顔が青白い蛍光灯の明かりの下に見えた
「茅乃…」
「有り難うございました…奏は?」
「寝てるよ…なぁ、どういうことなんだ?なぜ高塔が刺された」
「私のせいです…私が…」
「いや茅乃、そう考えるのは安直過ぎるぞ」
社長が肩にポンポンと手を置いて微笑む
「高塔が茅乃に惚れたせいでもあり、岳人が裏切ったせいであり、ミキが高塔を諦められなかったせいで……茅乃が高塔に惹かれたせい…どれもが絡み合った結果だ」
社長は響く声を潜めて呟くと課長は額に手を当てて下を向いた
「そうだな…しかしミキを焚き付けたのは…岳人なのか?」
「そこまでは分かりません…」
(確かに刺される前にミキちゃんに岳人が何やら話していたのは見たけれど……)
そんな風に思っていると社長に背中を押された
「茅乃先に行け…」
「はい」
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