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それから……茅乃は姿を消した
予想通りあの後は一度も姿を見せず
母はしきりに心配してくれたが
彼女はもう自分からはオレには会わないつもりだろうと分かっていた
(そうでなければバーで会ったあの夜追いかけていたさ)
意思が固く、愛情深い茅乃は…オレの為に姿を消したのだろう
そんな彼女だから惹かれてしまうんだ…
噂をされる中、会社に復帰した
辞める選択も出来たけれど…茅乃と繋がる糸を切りたくなかったのだ
「高塔、もう大丈夫なのか?」
「…身体はもうすっかり…」
福田課長は少しやつれたように見えた
「そりゃあ良かった…お前は居ないわ茅乃は抜けるわで…主任が足らなくてな…全部オレに皺寄せがきて…正直キツかったよ」
「ご迷惑をお掛けしました…」
「今までの三倍働いてくれよな」
「三倍!キツ!」
「あはは」
福田さんの笑い声を背にデスクに向かう
休んでいる間に溜まった事案に目を通していく
たまにまだ傷がツルような感覚があるが、それを無視して仕事を進める
(必ず…昇ってやる)
社長にも挨拶に行き、それとなく茅乃の事を聞いたが
「退職したとしか知らんよ、治ってよかったな高塔」
「そうですか…失礼します」
「なぁ1つ聞いて良いか?」
「はい」
退室しようとしたら、社長はデスクに肩肘をついて顎を拳に乗せてこちらを見た
「お前にとって茅乃は何だったんだ?好みの女?人の妻、上司…遊び相手」
「…憧れで心から惚れた人、です」
そこは即答できた
するとその答えに満足したのか社長は唇を楽しそうに三日月のように引き上げて笑った
「そうか…ま、頑張れよ」
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