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月の無い夜、森の中。黒いローブを纏った二つの影が闇に溶けるようにひっそりと佇んでいた。一人の背丈は人並み、もう一人はさらに小さい。
「旦那、ウルグの奴ら来ないですね」
小さい影が綺麗なソプラノボイスでポツリとこぼした。だが、旦那と呼ばれた影は返事を返すことなく、身じろぎ一つもしない。その様子に何を察したか、小さい影も再び黙った。
果たして、数分後、火薬の匂いをさせる連中がドヤドヤと彼らの前に現れた。皆一様に疲れた様子であったが、びしりと整列するとその奥から一人の男が進み出た。手には何やらジャラジャラと音のする巨大な鞄を持っている。
「お待たせしやしたね、べレス一家のお二人さん」
「時間通りだ、気にすることは無い」
「そりゃありがたいことで。そんで、約束のブツは?」
若げな男の言葉に、背の高い方がローブの懐から小さな麻袋を取り出し、揺らして見せた。すると、袋がうっすらと発光し、それを見た若い男は満足そうに頷くと手元の鞄を影の足元に投げた。ドシャッ、と重たそうな音がする。
それをサッと小さな影が拾い、もう一つの影に手渡した。暫く身動きしなかった影だが、やがて満足したか鞄を足元に落とし、若い男に歩み寄って小さな発光する袋を手渡した。若い男は少しだけ袋の口を開いて中を覗くと、すぐさまその口を縛り直した。
「本物ですね」
「お互いにな。毎度あり」
「へぇ、今後ともよろしくお願いしまさ」
軽い口調で話した若い男が右手をサッと上げると、背後の連中がサッと別れた。そして、一礼をすると若い男はその奥へ去って行き、来た時と同じようにやかましい音をさせて帰っていった。
彼らが全員いなくなっても、二つの影は暫くそこに残っていた。
「……帰るぞ」
更に数十分が経過して、漸く大きな影が口を開いた。重厚なテノールが森に響く。影は足元の鞄を拾い上げると、踵を返してずんずんと森を進み始めた。小さな影がそれに続く。
二つの影が森を抜けて街道に辿り着いた時、東の空は既に白み始めていた。
「今回も大成功でしたね、旦那」
「そうだな」
旦那と呼ばれた男がそっけなく返すと、二人の耳に微かな馬車の音が届いた。
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