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「……あのぉ、おたくさまの国で秋口に飛んでおるトンボは何トンボですかぁのう」手をあげた緑の雪が降る国の大使がたずねます。
「白トンボですよ。なんですか、唐突に!」
「では先ほどからお話されとるそちらの黄色い雪の国の方、見ようによってはおふたりともずいぶん仲がいいようにもお見受けできるんですがぁのう、ひょっとして以前からお知り合い、もしくは親戚すじにあたったりなんてぇことは……」
「白の他人に決まってるじゃないですか!」
「あ、あのぅ」黒い雪の降る国の大使が珍しく嬉々として手をあげます。「あなたの国の公共放送が年末にやっておられるあの歌番組は何といいましたかねえ」
「白白歌合戦でしょ!? それが今この議論の場で何の関係があるんですか!」赤い雪の降る国の大使が鼻で笑います。「まったく、こんなわけのわからない質問をするためにこのような場所にノコノコ現れるなんて、とんだ白っ恥ですな!」
黄色い雪が降る国の大使はわなわなと立ちあがり、手を叩きました。「素晴らしい! なんということだ! 我々は今まさに進化を目の当たりにしておりますぞ!」
「本当だ! 進化だ進化だ!」
「マサカヨリニヨッテアノヒトガ!」
「進化唐突、至極奇妙!」
会議場は万雷の拍手にあふれ、赤い雪の降る国の大使はわけのわからぬまま英雄にまつりあげられたのでした。
高揚感に満ちた議場から出た一同は、目に飛び込んできた主催国の雪景色に顔をしかめました。
「はあ、すっかり夜が明けてしまいましたなあ。しかし夜だったから気になりませんでしたが……」
「明るいところで見るとなんともまあグロテスクですなあ」
「この雪景色こそ、なにかしらの検討の余地がありますぞ」
「いかにも。これが気にならないこの国の人々こそ、高度な進化を遂げてにいるのかも知れませんな」
飛び交う言葉を耳にしながら、議長は肩を落として周囲を見渡します。
茶色い雪景色が、今朝もどんよりと視界を埋め尽くしていました。
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