雪国会議

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「サンタクロース大明神にとどこおりなく贈答品配布の儀式をとり行っていただくためにも、わたくしどもも国をあげて協力してさしあげねばなりません。プレゼントの希望は少なくともひと月前には把握しておく、当日は子供たちにホットミルクを飲ませて早めに寝かしつける、パーティーはなるべく自宅で済ませて不要不急の外出は控える、等々! …ま、心がけ程度の些細なものではございますが、それでも国民ひとりびとりが気にかけておくことが肝要なわけです。なにしろサンタ大明神ご自身がたったひと晩の隠密行動によってとり行う儀式ですからな。そしてなによりもこの――」咳払いをしてからほんのすこしだけ水を飲みます。「…このサンタクロース大明神さまの秘められた儀式を円滑に実行せしめているのが、国をあげてのバックアップもさることながら、なにをおいても第一にわが国が誇る自然の恩恵――真っ赤な雪景色なのです」  緑の雪が降る国の大使が手をあげます。「どうしてその赤い雪景色が、円滑にナニを遂行せしめるんでしょうかぁのう」  赤い雪の降る国の大使は、出来の悪い生徒を相手にするいやらしい教師のような口調で問いかけます。「みなさん、サンタクロース大明神の正装が何色か、ご存知ではありませんかな?」  ざわつきはじめる一同を両手で制して、こたえも待たずに赤い雪の降る国の大使は言いました。 「そのとおり。赤です」  会議場はいよいよ騒々しくなってきました。 「静粛に! 静粛にっ!」議長が木槌を連打します。  挙手した緑の雪が降る国の大使が、議場が静まるのを待って発言します。「つまりそのぉ、赤い雪の降る環境において、赤い衣装のサンタさんが作業しやすいと、こうおっしゃるわけですかぁのう?」 「ま、すごく大雑把に言ってしまえばそういうことになりますかな」 「要は、一面真っ赤な雪景色が赤いユニフォームをカモフラージュしてくれると、こういうことでよろしいんですなぁ」 「左様。それゆえにサンタクロース大明神さまはストレスを感じることなく、すこぶる隠密裡に儀式を慣行できうるわけであります」赤い雪の降る国の大使は満足げにあごをあげました。 「理由はたったそれだけなんですね?」  だしぬけに発せられたその言葉に、赤い雪の降る国から来た大使はひるみました。「たったそれだけ……?」  手をあげているのは黄色い雪が降る国から来た大使でした。
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