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「たったそれだけの理由であなたは他の国の雪景色を否定なさるわけですね?」
「たったそれだけとは無礼な! サンタクロース大明神さまをなんと心得る!」
「ここはサンタクロースを自慢する場でもクリスマスについて意見を交換する場でもありません」黄色い雪が降る国の大使は机に眼鏡を放り出して眉間に指をあてました。「そもそもサンタの衣装が赤っていうのも飲料メーカーの発明なわけでしょ?」
「きっかけがなんであろうとかまやしないじゃないか! では土用の丑の日はどうなるんだ! あれも一介の発明家によるマーケティング戦略じゃないか!」
「自分が持ち出した議題を棚上げにして、また新たな無駄話の種をまかないでいただきたい。土用の話なんかするときっと――」
「すくなくともあたくしどもの国では土用丑の日なんて慣習はございませんがぁのう」
「ほらみたことか」
木槌が打ち鳴らされます。「静粛に、静粛に!」
議長が口を開こうとする機先を制して、黄色い雪が降る国の大使は手をあげて発言の許可を得ました。「私らの国に降るのは黄色い雪です。つまり、…おわかりですね? 雪景色といったらそりゃあもう、どこまでも広がる砂漠のようで、すこぶる殺風景なものなんです。それでもまぁ故郷の景色ですから、みなさん同様、私らの国でもまた、文字どおり自国の特色である黄色い雪の華に愛情をもって接していたつもりなんですが、やはり――」黄色い雪が降る国の大使は、わが国の席へそっと目を向けてほほ笑みます。「白い雪への憧憬を禁じ得ません」
会議場がまたざわめきます。
「いえ、わかります。みなさん、わかりますよ。私だって自分の国の雪景色がいちばんであって欲しい」ざわめきにあらがうように声を張ります。「しかしこればかりは仕方ないんです!」
木槌が乱打されます。「静粛に! 私語はつつしんでください!」
黄色い雪が降る国の大使は黄色いハンカチをとり出すと、小きざみに汗をぬぐいました。「この点、私らの国では珍しく意見が一致してるんです。つまり“雪はやっぱり白に限るよね”という点で国民の総意が得られているわけです」
「いやあ、しかしあなた方はそれが行き過ぎてしまった典型ではないですかあ」黒い雪が降る国の大使がふてぶてしく言いました。
「発言は挙手にて願います」議長がにらみをきかせます。
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