雪国会議

6/8
前へ
/8ページ
次へ
 黒い雪が降る国の大使は申し訳なさそうに腕組みをといて、またおずおずと手をあげます。 「いえ、あのぉ、発言ってほどのことでもないんですよ。ちょっとしたゴシップに翻弄されただけのことでございまして。さ、さ、ぜひ続きをうかがいたい。かの国では黄色い雪をどうあつかうようになったのか」  どうあつかうようになったのか……?  議場はざわめきかけましたが思いとどまり、各国大使はすぐさま固唾を飲みました。  議長も静かに身を乗り出します。  黄色い雪が降る国の大使が、ぐにゃりと口角をあげながら挙手をします。 「黄色を白とみなすことにしたんです」  静寂の後、笑いのまじったざわめきがぶり返しました。  議長も木槌を叩くのを忘れ、口をぽかんと開けています。 「あのう……」わが国の大使はゆっくりと手をあげて雑音に揉まれながらもたずねようとしました。「それはつまり――」  まあまあ、となだめるような仕草をしてから、黄色い雪が降る国の大使は続けます。「つまりは、まあ、申しあげているとおりです。ことのはじめは気分だけでも、黄色を白と呼ぶことにしたわけです。そこから次第に、黄色いものを白と認識するよう心がけたのです」 「国をあげて自己暗示をかけたわけですな」赤い雪の降る国の大使が言いました。 「なんと言われようとかまいません。ただ、われわれの本意としては進化を願ったわけです」 「進化? 黄色と白との識別を拒否することが果たして進化と呼べるのですかな。むしろ退化と呼ぶべきだ」 「いえいえ、必要ないものが淘汰されることは立派な進化ですよ」黄色い雪が降る国の大使は背すじをのばしました。「そもそも私らの国に巻き起こったこのムーヴメント自体、自己暗示だの識別の拒否だのといったチンケなものじゃあないんです。現に私などは多くの同胞たちと同様、見事に進化をとげて、黄色を白として認識することしかできなくなってしまったんですよ。よって、私にはもはや黄色という概念に関するあらゆる感覚そのものが存在しないのです!」
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加