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「では、おたずねしましょう」赤い雪の降る国の大使がぎょろりと目をむきます。「あなたがお持ちのその幸せを呼び込んでくれそうなハンカチの色は何色ですかな? 幸せの――?」
「き…白い、白いハンカチです」
「ほう。それがまた大層お似合いですな。本国ではきっと、ご婦人方も放っておかないでしょう。さぞ熱狂的な声援が飛び交うんでしょうな。キャーキャーキャーキャーとこんな具合に声援が」
「いやあ、さすがにそんな黄色い――」
「ンん!?」
「……白い声援は飛びませんよ」
黒い雪が降る国の大使がふんぞり返って唇をゆがめます。「こりゃあちょっと無理がありますよお。あーた白状なさいな。進化だなんだって、ねえ、ンーなもん願ったからっておいそれとかなうわけじゃないんだから。いや、はなっからおかしいと思ったんだボクは」
「発言は挙手でしょ?」赤い雪の降る国の大使は目も合わさずに太い声をぶつけます。
黒い雪が降る国の大使は腕組みをといて姿勢を正しました。それから小さく手をあげます。
「いえ、あのぉ、とりわけ発言ってほどの内容でもないんですけど、ま、ささやかな合いの手といいますか野次といいますか……。さ、さ、引き続き闊達な議論をばひとつ――」
「いい加減にしていただきたい! さっきからあなた、お気楽な立場のときにはたのんでもないのに口を開くが、いざ責任ある発言を求められると途端に尻すぼみになってしまう」赤い雪の降る国の大使は訴えかけます。「こちらの国では国際会議の場にこんなくちばしが青い方を送り込んで恥ずかしくないんでしょうか」
「それを言うなら“くちばしが黄色い”でしょ?」黄色い雪が降る国の大使が即座に訂正しました。
赤い雪の降る国の大使がしたり顔でゆっくり何度もうなずきます。「お聞きになりましたか、みなさん?」赤い雪の降る国の大使はすぐさま矛先をかえます。「黄色という概念を失ったはずのこの方の口から今まさに黄色という言葉がはっきりと飛び出しましたぞ!」
「いえいえ、私はただ慣用句の間違いを正しただけで――」
「いやあもう進化だ淘汰だとチャンチャラおかしい、あなたのおっしゃってることはすべてウソだ!」赤い雪の降る国の大使はいきり立ちます。「真っ白なウソにちがいありませんよお!」
議場に集う面々は近場の者同士、あたりかまわず顔を見合わせました。
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