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柊斗を負ぶって夜道を小一時間、わざわざ歩く気になったのは、箱入り柊斗に雪の冷たさを体験してほしいのもある。
「ただいまー」
「あら珍しい。どうしたの」
一人暮らしの母が顔を出した。
柊斗の靴を脱がせ、中に上がる。ひなびた小さな一軒家、これでも昔は住み込みバイトの兄ちゃんらで、否が応でも賑やかだった。
家業が新聞配達だったので、中学の頃にはもう彼らに混じり、朝刊配達の手伝いをしていた。
俺が子どもの頃なんて、自営業の家の子は当たり前のように仕事の手伝いをしたもんだ。
「昔は雪が積もると気が気じゃなかったのにねえ」
昔に比べて雪の量はずいぶん減ったが、それでも冬になるとこの辺りは雪が積もる。
真冬の新聞配達は別に辛くはなかった。当時はそれなりに辛かったかもしれない。でもその生活が当たり前過ぎて、不平を漏らすことはなかった。
チリンチリン…
景気づけに自転車のベルを鳴らす少年の俺。明け方4時前は、まだまだ夜中だ。
チャリンコの前カゴと後ろの荷台にめいっぱいの新聞を載せ、近所に向けて駆け出していく。
ある雪の日、凍った路面に滑ってドブに新聞の束を落としてしまったことがある。さすがに「やっべー」と思ったが、こんな雪の日の朝早くから中学生の子どもが新聞配達をしてる姿なんて見てみ?
文句あっか。エライねえ大変だねえと気の毒に思いやがれ。
俺はそう思って、何食わぬ顔してドブに落ちた新聞を、いつも通り全部配達し終えた。
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