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「ねえパパ、いつも何切ってるの?」
「何って…紙だけど」
「毎日毎日そんなに切ってて疲れない?」
「疲れる?」
妻の実怜からの唐突な質問。改めて目の前の紙片の山を眺めた。
細かく刻んだ紙が、でも今夜はまだダンボール箱に半分くらい。全然足りない。リビングの片隅にある机の周りにはダンボール箱が積み上がってはいるが、まだまだ足りないんだ。
「引っ越しする人みたいよ。それ、どうするの?」
「どうするんだろうな」
「ハサミよりシュレッダーにしたら?私、買ってこようか、卓上の」
「それじゃあダメなんだ」
実怜は分かっていない。
俺が紙を三角の形に切る意味を。
「ねえ、少し疲れちゃった。暇なら何か手伝ってくれない?」
「何か?何?」
俺はやっと手を止めた。
暇、と思われるのは心外だが、他人から見ればそうなのだろう。
「柊ちゃんに手がかかるんだから、家のこともちょっとくらい」
「だから何を手伝えばいいんだよ」
「もう、いい!」
実怜はまた出て行った。
時々癇癪を起こすのに気づいてはいるが、なだめてもその効果は長続きしない。むしろ黙って聞き流していれば、いつの間にやら実怜自身で落としどころを見つけている。
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