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今夜だってきっとそうだ。再びハサミを手にし、紙を切る。気がつくと隣に柊斗がポツンと立っていた。
「どうした。ママは?」
慌てて狭い家中を覗いたが、どこにもいなかった。
今夜は柊斗を連れて行かなかったのか。
ふとハサミを持ったままだったことに気づき、柊斗の手の届かない場所に置く。そして俺そっくりなチビを抱き上げた。
「ほーら、高い高い」
柊斗は黙って俺の目を見ている。
3歳になるが言葉があまり出てこない。母子手帳には今年も要観察と記入されていた。身体も少し小さくて、実怜は余計に頑張って食べさせようとするが、元々食が細い。それが実怜の癇癪に拍車をかける。
さて、なあ。
俺も家の中では一日中紙を切るだけの男だ。柊斗と何をして遊べばいいのか思いつかない。
「柊、ばあちゃん家に行くか」
返事を待たず、支度をして実家に出かけることにした。寒波とやらで、夜の空気は張り詰めている。でもそれが切迫した夫婦関係のメタファーだとか、描写するのはもう終わりにした。
柊斗に向かって呟いた。
「降り始めたな」
ありったけの防寒着を着させられ、まるで服が歩いてるようじゃないか。
劇団の脚本を書くのはもうやめたんだ。
小粒でサラサラした雪、みるみる路面を白く覆う勢いに、今夜は積もると思った。
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