序   業火

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序   業火

 化け物は、娘のすぐそばにいた。  空は赤く染まり、地には地獄のような火柱がたっている。  つい今しがた、獣のようにいきりたった炎が、娘のわきを駆け抜けていったのだ。  悲鳴や怒号が遠くのほうから聞こえる。  里は阿鼻叫喚の渦だった。  娘のおさない頬を、熱風が容赦なくあぶっていく。  けれど娘は瞬きひとつせず、目の前の化け物を凝然(ぎょうぜん)と見つめていた。  ゆっくりと流れてきた血の筋が、娘のつま先にまで達しようとしている。  炎に照らされて、血だまりが不気味に光った。  そのさまを見て、娘は思う。  今、この現実を封じられるなら、私は何もいらない。  光さえいらないのだと、娘はかたく瞳を閉じた。 image=509280738.jpg
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