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馴染んでいるはずの道。
本当はもう、歩数などかぞえなくても歩けるはずだった。
けれど今、立ちどまった蛍のほんの一歩さきに、なにか得体のしれないものがいた。
杖の先でふれて確認するまでもない。
そこに何かがいるという気配が、暑い空気をつたって感じられる。
それは道端でうずくまっているらしい。
蛍が立ちすくんでいることに気づいたのか、わずかに身じろぎをする。
ちりん、と鈴の音のようなものが聞こえた。
と突然、目の前のなにかがぬっと立ちあがった。
蛍は思わず後退る。
……ああ、人なのだ。
てっきり大きな獣だとばかり思っていた。
相手が人ならば、何か話しかけなければ失礼だろうか。突っ立ったまま黙っているのでは、ばつが悪い。
蛍は唇をひらく。
けれど言葉は喉元でつまってしまって、うまくでてこなかった。
なにか、おかしい。
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