一話  名無しの妖

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 どうしても獣としか思えない雰囲気が、目の前の人物からにじんでくるのだ。  自分のそばにいるのは、本当に人なのだろうか……。 「あの……、大丈夫ですか?」  奇異なものを避けようとする衝動をこらえ、蛍は思いきって話しかけた。  声がおびえたように震えてしまう。  ちりん、とまた鈴の音がする。  さきほどよりかすれて響いたその音は、目の前にいる人物の戸惑いをあらわしているように聞こえた。  蛍は、閉じたままの眼差しをあげる。 「うずくまっていらっしゃったので、お加減が悪いのかと」  今度は震えずに言うことができた。  少し間をおいて、目の前の人物がこたえる。
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