41人が本棚に入れています
本棚に追加
「今日のデートだけど、僕の家に来てくれないかな。仕事の都合で、君の家に行くのは、ちょっと難しそうなんだ」
「え……っ!」
オーブンから出したてのフォンダンショコラを食べてほしかったのに!
「じゃあ、早めにそちらに行っていてもいい?」
彼の部屋のオーブンで焼いたことはないけれど、それしかないだろう。合鍵はもらっている。
「ごめん。今日は人が入るから、約束の時間に来てほしいな」
「人?」
「ああ、少し部屋を綺麗にしておこうと思ってね」
綺麗好きの彼は、定期的に部屋に清掃業者を入れている。普段は在宅中にやってくれるけど、断るということは、大々的なクリーニングなのかもしれない。立ち会いは、実家で働いている人たちがするのだろう。彼の実家には、専属のシェフを始めとした多くの人たちが働いて、一家の公私を支えている。
仕事で忙しい彼に文句も言えず、受け入れるしかなかった。
どうしよう……!
困り果てた私に、追い討ちが来た。師匠であるパティシエールに、途中まで見ててもらおうと思ったのに、急に来られなくなったと電話があったのだ。
それは仕方ないとして、相談させてもらう。
「出来たてじゃなくても美味しいお菓子を教えてもらえませんか?」
最初のコメントを投稿しよう!