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「教えて差し上げることはできますが……新しいものにチャレンジするより、今まで練習なさったフォンダンショコラをお持ちになっては? 本当に美味しくお出来になるようになったんですから、どうか自信をお持ちください」
そう励まされて、家で焼いたフォンダンショコラを持っていくことにした。彼の家で温めれば大丈夫だと教えてもらって。
無事に焼き上がり、粗熱が取れた頃に、私の住む安アパートの前に迎えの車が止まった。
彼の家は、利便性の高い都会にある高級マンション。見上げても、在宅か分からない超高層階に彼は住んでいる。
運転手さんに受付まで案内され、コンシェルジュに彼の住むペントハウスにしか止まらないエレベーターまで見送られる。
エレベーターを出れば、待っていてくれた彼は、テレビで見る俳優さんたちよりも綺麗で、スマートで。マスコミに、ホテル界のプリンスなんて持て囃されるのにも違和感がない。
「よく来たね」
すぐにハグ。来てくれてありがとうだとか、会いたかっただとか、怒涛ように言葉が降り注ぐのにも、ようやく慣れてきた。
普段は何も掛かっていない真っ白なドアに、深紅の薔薇のリースが掛かっていた。ドキドキしながら部屋に案内される。モノトーンを基調としたシックな部屋は、むせ返るような薔薇の花でいっぱいだった。
「……これは?」
「バレンタインだから。欧米では、男性から花を贈るのが一般的なんだよ」
「そうなんだ……」
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