月夜と王宮のマグノリア

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 1 「もう、アンジェったら。まだ身支度が終わらないの? はやくちないと朝食が冷めちゃうじゃないか」  ハリマウ神殿に元気な声が響く。  神官長を務めるルー・ラタトスクが、息子であるアンジェラス・ジュリオ・ラタトスクを部屋まで呼びに来たのは、今朝はこれで二度目になる。 「ちょっと待ってよ、もうすぐ済むから。ああ、そうだ。ママ、先に食堂へ行っててよ。すぐに行くから」  今年で十六歳を迎えたアンジェラスは、気高く咲き誇る白薔薇のように美しく、またそれを理解したうえで自分磨きに余念がない。  食いしん坊のルーが食にうるさいのはいつものこと。自室から一歩でも踏み出せば、誰かしらの目にとまることになる。  きっちりと身なりを整えるほうが大切、ルーの食い意地につき合っている暇などなかった。 「じゃあ僕は先に食堂へ行ってるからね。パパが待ってるんだ、遅くなっちゃダメだよ」 「はーい」  髪をブラシで梳きながら、ルーの言葉に返事をする。その様子をうかがいながら、ルーは小さくため息をついて部屋をあとにした。  年頃の子を持つ母親のルーは、それを嬉しく思う反面少し淋しくもある。  仲良くおやつを取り合っていたアンジェラスの幼き頃を想いだし、それだけ時が過ぎたのかとルーは感慨深く思いながら食堂に急ぐのだった。
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