669人が本棚に入れています
本棚に追加
1
「もう、アンジェったら。まだ身支度が終わらないの? はやくちないと朝食が冷めちゃうじゃないか」
ハリマウ神殿に元気な声が響く。
神官長を務めるルー・ラタトスクが、息子であるアンジェラス・ジュリオ・ラタトスクを部屋まで呼びに来たのは、今朝はこれで二度目になる。
「ちょっと待ってよ、もうすぐ済むから。ああ、そうだ。ママ、先に食堂へ行っててよ。すぐに行くから」
今年で十六歳を迎えたアンジェラスは、気高く咲き誇る白薔薇のように美しく、またそれを理解したうえで自分磨きに余念がない。
食いしん坊のルーが食にうるさいのはいつものこと。自室から一歩でも踏み出せば、誰かしらの目にとまることになる。
きっちりと身なりを整えるほうが大切、ルーの食い意地につき合っている暇などなかった。
「じゃあ僕は先に食堂へ行ってるからね。パパが待ってるんだ、遅くなっちゃダメだよ」
「はーい」
髪をブラシで梳きながら、ルーの言葉に返事をする。その様子をうかがいながら、ルーは小さくため息をついて部屋をあとにした。
年頃の子を持つ母親のルーは、それを嬉しく思う反面少し淋しくもある。
仲良くおやつを取り合っていたアンジェラスの幼き頃を想いだし、それだけ時が過ぎたのかとルーは感慨深く思いながら食堂に急ぐのだった。
最初のコメントを投稿しよう!