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壁にかかる姿見に全身を映し身なりを確認すると、最後に笑顔をつくり「よし。今日も完璧だ、アンジェラス」と自分だけの呪文をかけた。
これは彼が恋する気持ちを心に宿した頃、自身を戒めるための言葉として、毎日こうして鏡に向かい言いつづけてきた呪文だ。
言葉が持つ魔力を心にかけることによって、アンジェラスの美しさは日を追うごとに輝きを増していった。
象牙のように滑らかな肌と血色のいい頬。
父親と母親から受け継いだ艶絹のトゥーヘアード。燃えるようなガーネットと清らかなサファイヤを配置した夢見るオッドアイは、長い睫毛で縁どられている。
流れるような柳眉につづく鼻梁は、まるで少女のように繊細だ。
朝露に濡れた薔薇の花弁を思わせる口唇はぽってりとかたちよく、それらパーツはうりざね型の小さなおもてへ完璧に配置されている。
服装にも気を配るアンジェラスは、貴族のたしなみであるレースをふんだんに取り入れ、華やかに着飾る令嬢たちのドレスにも引けを取らない。
アンジェラスの気品ある美しさと華やかな着こなしは、王宮に出入りする貴族たちのあいだでも人気で、ファッションリーダーとして男女問わず尊敬されファンまでいるようだ。
そうまでしてアンジェが外見にこだわるのには理由がある。ひとえに好きなひとの目にとまり、心を射止め同じだけの好きを返して欲しいから。
「はあ。今日はユエ、ぼくに笑いかけてくれるかな」
長いまつ毛が目許に影を落とす。窓からのぞくグランディー城に視線を送ると、嘆願するようにアンジェラスはつぶやいた。
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