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「ちょっと、どんな入れ方してんの?」
それはバイト三日目のことだった。
『宮野』の名前の上に大きく『研修中』の札を乗っけてる俺に、その化粧の濃いおばちゃんが携帯を首に挟んだまま鬼の首を取ったように大きな声で言い放った。
直前まで、その白いコンビニ袋に品物を詰めてたもう一人のバイトが、店が混みだして隣のレジに移動した途端のことだった。
「え? あ、はい」
パッと見ると冷凍食品の下に食パンが入ってる。
「す、すみません。すぐ入れ直し」
「そんな入れ方したら食パンが潰れちゃうでしょ?」
はいはい。分かってるよ。だから入れ直すって……。
ヒステリックなおばちゃんの声を無視して、袋から品物を取り出していると、バイトリーダーの鮎川さんが飛んできた。
「お客様、もぉ~しわけありません! こちらの食パンと交換致します! って加藤さんじゃないですか。いつもありがとうございます! あれえ? 今日はこれから、もしかしてデートですか?」
「あら! やだー! デートじゃないわよー!」
「ほんとに~? じゃなんで今日、そんな可愛いの?」
「も~お。ただの仕事帰りよ! 上手いんだから! あ、パン! ありがと! わざわざいいのに~」
「ふははは。すみませんでした。あ、おつり、215円です。また寄って下さいね? 待ってますよ!」
「はいはい。またねー」
「ありがとうございましたー!」
細長い身体を直角に曲げ、キビキビと頭を九十度に下げる鮎川さん。化粧の濃いおばちゃんは見え透いたお世辞に上機嫌で店を出て行った。
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