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分かっているのは、自分の胸は、テレビや雑誌で見るような女の人たちのふっくらと柔らかそうな胸とは違うということだけだった。
視線を鏡から自分の胸に落とす。
肩に触れるか触れないかのところで切られた黒髪がサラサラ揺れ、その奥に痩せた腹と、ツンと上を向く小さな乳首が見えた。
風呂から上がり自分の部屋に向かおうとすると、緑さんのいるリビングからいびきが聞こえた。
キミドリはそっと引き戸をあけ、リビングに入る。
「緑さん、ねえ、風邪引くよ」
緑さんは白いローテーブルにつっぷして寝ていた。本来はサラサラのボブヘアーなのだが、時間の経過の為か、飲酒の為か、皮脂が滲んだ髪の毛は濡れたように束になっている。何度体を揺らしても、緑さんは起きる気配がない。
片方だけこちらを向いた頬は、歳の割りにはきめ細かく、ほんのり赤くなっていて子供のようだった。
仕方なくキミドリは、テーブルの上に転がる酎ハイの空き缶を片付け、テレビを消し、目覚まし時計を掛け、緑さんの背中にタオルケットを掛けた。
ゆっくり部屋を出ようとしたところで、再び酒の水たまりを踏み、今度は素足で踏んでしまったこともあり堪えきれず声を上げた。
「だぁー、もうっ!」
緑さんは「ふがっ」と一度鼻を鳴らしたが起きず、すぐに規則正しいいびきをかき出した。
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