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運動会や授業参観などは、最初のうち祖母が来てくれていたが、キミドリが高学年に上がる頃に他界してしまった。 運動会のお弁当は先生と食べるようになった。授業参観では、教室の後ろにずらりと並ぶ母親たちから発せられる仄かな甘い匂いの充満した中、少し浮ついた雰囲気の先生やクラスメイトたちが自分の手の届かない遠い所にいる気がした。 実際、緑さんはいつも忙しそうにしていた。 忙しそうな緑さんに、寂しいと訴えるのははばかられ、行事の知らせのプリント渡すことすらなくなった。 あまりに行事に参加しない緑さんは、よくキミドリの担任教師に呼び出されていた。 渋々学校に行った帰り、緑さんは決まって、 「あー、めんどくさっ」 と、顔中しわしわにして言うのだった。 その顔が、キミドリは心底嫌いだった。 さすがに小学校の卒業式には出席した緑さんだったが、それも途中で退席してしまった。 中学に上がる前の春休み、リビングでテレビを見ていた緑さんに、キミドリはこう言った。 「ねえ、今度からお母さんのこと、『緑さん』って呼んでいい?」 すると、緑さんはテレビ画面を見つめたまま、 「おー、いいねそれ。クレヨンしんちゃんも、たまに母ちゃんのことみさえって呼ぶしね」 と答えた。 キミドリは、心臓がギュッと真ん中に寄っていくように感じた。     
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