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そうなって初めて、自分がただヤケになっていただけなのだと気付いた。 それでも、自分から言い出したことなので引っ込みが付かず、その日から本当にキミドリは母親を『緑さん』と名前で呼ぶようになった。 『緑さん』と口にするたび、心の奥にある大事な何かがすり減っていくような気がした。 しかし、そう感じていたのも束の間だった。 キミドリは、実の母親を『お母さん』ではなく『緑さん』と呼ぶことで、自分の心をずっと支配していたわだかまりが、次第にほぐれていくのを感じた。 わたしは、『母親』ではなく、『緑さんという女の人』と生活を共にしているのだ。 呼び名を変えるだけで、その認識は説得力を増し、キミドリに付きまとっていた寂しさや虚しさは小さくなっていった。 キミドリはそれに満足していたが、ただ小さくなっただけで消えたわけではないという事実には蓋をしていた。
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