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キミドリは、マグカップに入れたコーンスープを飲みながら、自分の左手をまじまじと見つめた。 先ほど顔を洗っていたときに感じていた違和感は、どうやら間違いではないようだった。 今、自分についている手は、元々ついていたものより全体的に一回り大きく、厚くなったように感じる。 指は細くて長いが、節くれだってゴツゴツした印象。 指の付け根には薄らと毛が生えている。 そして、一番分かりやすい違いは、左手の甲の真ん中辺りにあった、直径3ミリほどのホクロがすっかり消えていることだった。 生まれたときからずっとそこにあって、昨日まで色が薄くなることすらなかったそのホクロが、一夜にして完全に消滅していたのだ。 腕と手の付け根の色も、よくみれば微妙に違う。 まじまじと見れば見るほど、昨日寝ている間に自分の両手が誰かのものとすり替わってしまったのではないかというあり得ない想像が脳裏に浮かんだが、落ち着いて考えれば何らかの病気で手が突然変異したと考える方が自然だった。 病院に行かなくてはいけないと思うと、今日から新学期が始まるという不安定な心に更に憂鬱な影が落ちた。 憂鬱ではあったが、普段と変わらず淡々とコーンスープをすすっていることに、キミドリも自身少し驚いていた。 それは、その自分のものでないと思われる手が、それでも自由自在に動かせ、痛くも痒くもなく、速やかな対応の必要性を感じなかったのもあるし、経験したことの無い圧倒的な違和感にどう反応したらよいか、脳が追いついていないということもあったからだ。 そんなことを考えながらも、キミドリはいつものように自分で用意した6枚切りの食パンのトースト1枚と、粉末コーンスープを平らげた。いつもはこのメニューに加え、野菜不足解消の為にキュウリを1本丸かじりするのだが、今日はあいにく切らしていた。 シンクに空になった皿とマグカップを置きながらキミドリは、緑さんがまだ家を出ていなかったら、手の変化を見てもらっていただろうか、と考えた。 もし、見てもらったとしても、きっと緑さんは「へ? キミドリはいつもこんな手してるじゃん」などと言われて、大した反応もなく終わるだろうし、そうなったときの虚しさを考えるとあえて見てもらうことはしなかっただろう、と思った。
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