230人が本棚に入れています
本棚に追加
「じゃあそろそろ帰りましょうか」そう言って僕が財布を出そうとすると「今日はお姉さんが払うから。お医者さんになったらいっぱい奢ってね」と止められた。
お店を出ると、少し酔ってしまったのか、ふらついたさとみさんが僕の腕に組み付いた。
しっとりと柔らかい手が一瞬だけ僕の二の腕を捉え、跡形を残し離れていった。
もちろん傷も内出血もないのだが、彼女が掴んだその感触はその日眠るまで、時々に蘇った。
公園までの十分間、何を言うべきかを考えた。
「また会えますか?」「連絡していいですか?」「これ、僕の連絡先です」
でも、否定的な態度を取られたらと思うと、結局どれも言えなくて、さとみさんから何か言ってくれるかもという甘い期待も裏切られ。
「今日は付き合ってくれてありがとう。じゃあまたね」とだけ言い残すと、さとみさんは公園の明かりの中から背を翻し、木々の向こうに消えていった。
最初のコメントを投稿しよう!