いち

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「じゃあそろそろ帰りましょうか」そう言って僕が財布を出そうとすると「今日はお姉さんが払うから。お医者さんになったらいっぱい奢ってね」と止められた。 お店を出ると、少し酔ってしまったのか、ふらついたさとみさんが僕の腕に組み付いた。 しっとりと柔らかい手が一瞬だけ僕の二の腕を捉え、跡形を残し離れていった。 もちろん傷も内出血もないのだが、彼女が掴んだその感触はその日眠るまで、時々に蘇った。 公園までの十分間、何を言うべきかを考えた。 「また会えますか?」「連絡していいですか?」「これ、僕の連絡先です」 でも、否定的な態度を取られたらと思うと、結局どれも言えなくて、さとみさんから何か言ってくれるかもという甘い期待も裏切られ。 「今日は付き合ってくれてありがとう。じゃあまたね」とだけ言い残すと、さとみさんは公園の明かりの中から背を翻し、木々の向こうに消えていった。
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