いち

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ガラガラと戸を閉めて、いつものように、公園への道を歩いてゆく。 目の前には誰もいなくて、後ろにも、誰も歩いていない。 少しずつ公園の外灯が見え始め、徐々に大きくなっていく。 公園の中を見渡せるようになるまでのこの時間をもう何度過ごしたことだろう。 落胆するためのこの作業。 なのにいつも、少しずつ早足になってしまう。 公園の入り口が見えてきて。 公園の半分程が見渡せるところまでやってきて。 誰も座っていないベンチが見えて。 驚いたセミが、ジジッと鳴きながら飛んで行ったかと思うと、後ろから「蓮」という熟しきっていないリンゴのような、声が聞こえた。
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