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「どうしたんですか?」
ためらうこともできないほど、反射的に声を掛けた。
一瞬驚きビクッとした彼女が振り返り、僕の顔を見た、泣きそうな顔をして。
彼女が抱えている膝の前には黒い子猫が横たわっている。
「死んじゃった、かもしれない……」
僕は猫に顔を近づけた。
やはり息をしていない。
首元に手をやると、まだ少し温かかった、だが脈を蝕知することはできなかった。
心臓マッサージを試みようと、右手で胸郭を圧迫した。
だが「ポキポキ」と骨同士が当たる音がして、すぐにそれをあきらめた。
事故にでもあったのだろうか、肋骨が何本も折れている。
「ダメみたいです。この子……」
「あなたは、お医者さん、なのですか?」
「いえ、今はまだ。そこの医大の五年生です」
僕がそう言うと、彼女は猫の方に振り返り「よかったね、ちゃんと最後はお医者さんに診てもらえて」そう言って、子猫の胸元を、折れた肋骨の上を優しく撫でた、何度も何度も。
「痛かったよね。辛かったよね。でももう大丈夫。もう二度とこんなところに生まれてきちゃダメだからね」そう言って彼女は撫で続けた。
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