いち

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ダメ? なんだ……。 やっぱり結婚しているのかな。 左手の薬指に指輪はなかったけど、外しているだけなのかもしれない。 でも、たとえそうだったとしても、連絡先を教えてもらえないということは、信用されていない、というか、迷惑な存在だと思われている、そんな気がして、さとみさんの姿をずっと探し続けていた自分がとても悲しくなった。 さとみさんは、しばらく下を向いていて、ふと目線を上げたかと思うと、もう一度僕の方に振り向いた。 「今から、時間ある?」 「えっ? あ、はい。あります。時間ならあります」 実習も終わったところだし、明日は休みだし、時間はある。 でももしなくても、ある。 たとえそれが、ちゃんと諦めるように僕を説得する時間であったとしても、少なくとも今のままよりはずっとマシなような、そんな気がする。 「じゃあさ……、今から海を見に、行かない?」
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