いち

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フロントガラスの向こう側はスピード感を増してゆく。 その時に、ふと僕の中に、ありえない期待と必要のない心配事が生まれた。 もしも今日、キスをしたら、カレーの臭いがしてしまうのではないだろうか……。 そんなことを考えてしまった自分をとてもバカな奴だと思ったのだが、一度考えてしまうと、もしもが心の中で大きくなってゆき、僕を押さえつけるシートベルトに逆らい上半身を乗り出して「あの、できればコンビニに寄ってもらえませんか?」と、さとみさんに嘆願した。 「ん? ガムが噛みたかったの?」 コンビニから戻ってきて、さとみさんにわからないよう、音を出さずにそっとガムを噛み始めたのだが、ミントの香りのせいなのか、バックミラーで見えていたのか、どちらにせよ、そう言われてしまい「君、もしかして変な期待をしていない?」と見透かされたみたいで、おねしょをしているのを見つかった時くらい、とても恥ずかしかった。
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