いち

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僕たちは自動販売機の横のゴミ箱を開け、空き缶を二つ取り出して、それで公園の端にある桜の木の下に二人して穴を掘った。 木々の間は腐葉土になっていて、空き缶の端でも簡単に掘ることができた。 「なんて言うの?」 「えっ?」 「あなたの名前」 「蓮です。ハスって書いて、レンと読みます」 「蓮……。いい名前だね」 「ありがとうございます。あの……、あなたの名前も、聞いていいですか」 彼女は何故か地面の方を向いたまま少し微笑み「さとみ、です」とだけ答えた。 さとみさん……。 一生忘れることのできないこの名前を、僕はこの時に知った。
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