いち

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猫が一匹、僕の足元にすり寄ってきた。 「ねぇ……、ごはん……、食べに連れて行ってくれない、かな?」 「えっ、いいですけど。僕、定食屋くらいしか知りませんよ」 さとみさんは目を輝かせて立ち上がり、 「定食屋さん? うん、そこがいい。そこにしよう!」 そう言って、行先も知らないのに歩き出した。 「えっと、そっちじゃなくて……」 「あっ、ごめんなさい。もうおなかペコペコで」そう言いながらお腹を撫でるさとみさんは、なんだかお腹を空かせた子供のようだ。 公園からそのお店までの徒歩十分。 僕はどうやって歩くべきなのか、頭を巡らせた。 あまり生活感を感じさせないさとみさん。 姿を見かける曜日も時間もばらばらで、バリバリ働く人のようには思えない。 まだ新婚の、専業主婦? いや、もしそうなら、こんなに夜遅くに外をぶらつくことなどないだろう。 どちらにせよ、結婚している可能性は十分にある。 そして、住まいは間違いなくこの近所なのだろう。 仲良さそうに、二人並んで歩くのは、やめておいた方がよさそうだ。 かといって、二人縦に並んで歩くのも他人行儀で。 僕が斜め前になるようにして、なんかボディーガードみたいだな、なんてことを思いながら車道側を歩き、時々振り返っては「もうすぐですから」とおなかを撫でるさとみさんを励ました。
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