230人が本棚に入れています
本棚に追加
准教授の呼吸と心臓は動き始めたのだが、意識はすぐには戻らなかった。
救急隊が到着すると、さとみさんが悲壮な顔をして、「何があったんですか?」と問いかける隊員に、「私が――、私がこれから始めてみようかなと思っていたテニス、この学生さんがテニスラケットを持ってきていたから――」と言い始めて。
準教授の重症度とバイタルを診ていたもう一人の隊員に「奥様ですよね? 旦那様は大丈夫ですから、落ち着いて」と言われて。
「はい――。だから、私が久しぶりにラケットを振ってみたらうまくできなくて、力まかせに振ったら夫の頭に当たってしまって、それで倒れて……。でもたまたま遊びに来ていたこの学生さんたちが助けてくれたんです」
死人に口なし、ということなのだろう。
とりあえず僕達は、特に疑われることもなく、意識のない准教授は、さとみさんに付き添われ、救急車で運ばれて行った。
さとみさんは最後まで「大丈夫なんですか? 夫は本当に大丈夫なんですか?」と心配する声を上げていた。
最初のコメントを投稿しよう!