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躊躇している僕の背中を「まだいるのかな」という、さとみさんの怯える声が後押しした。
靴を脱いで廊下に上がり、僕の背中の服を掴んでいるさとみさんと一緒に廊下を進んでいくと、一番奥の部屋は大きなリビングダイニングで、右手前はオープンキッチンになっていた。
さとみさんが「ここ」と言って指さす左奥にはソファがあって、その横の小さな出窓に、FAXを兼ねた電話が置かれていた。
近付いて、窓から外を見渡した。
道路の方には誰もいない。
念の為、顔を窓に近付けて、辺りを可能な限り見渡したが、どこにも男の姿は見当たらなかった。
「もういないみたい」
僕がそう言うと、さとみさんは「はぁ、よかった」と安堵のため息をついて、ソファに座り込んだ。
僕も同時に背中を引っ張られ、さとみさんの隣に座った。
「ありがとう」そう言って、さとみさんのおでこが、僕の左肩にひっついた。
僕の両手が、そのさとみさんを抱きしめようと反射的に動き出した時、僕の目の中に沢山の物が飛び込んできた。
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