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今日こそは「この後、二人で飲みに行かない?」そう言おうと心に決めていたのに。
その相手が、急に帰らなくちゃいけない用事ができたから、なんてことを言いだして、私のささやかな、でもとても勇気のいる願いを伝えることさえできなくなってしまった。
仕方がない。
一人で飲みに行く勇気もないし、コンビニでアルコール強めのカクテルでも買ってきて、部屋で映画でも観ながら飲むことにしよう、彼が好きだと言っていた邦画を。
ロングの髪をざっと乾かし、後ろで束ねて巻き上げた。
化粧水と乳液だけを塗り、ノーメイクのままマスクと伊達メガネをかけ部屋を出た。
インフルエンザや花粉症の季節でなくとも、この格好が世間に受け入れられるようになり、お年頃の女子には有難い。
階段を降りて、地下駐車場にとめてある自分の車に乗り込んだ。
父に買ってもらった黒のビートル。
「なんだ、女の子なのに赤じゃないのか」そう言われたが、この子は私のお気に入りだ。
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