いち

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ガラガラと音のする、少し重くなった戸を開けて、奥でテレビを見ていたおばちゃんに「こんばんは」と声を掛けた。 「いらっしゃい」とテレビを見たまま答えたおばちゃんは、振り向くと、おや? という顔をした。 あらっ? 女の人を連れてきたんだ? そんな顔だ。 いつもはカウンターの端に座るのだが、おばちゃんのその顔が恥ずかしくて、テーブルの椅子に腰を下ろした。 置いてある残り三却のどの椅子に座ろうか、少し悩んださとみさん。 何故か僕の顔を伺いながら、隣の椅子を少しだけ離し、そこに体を忍び込ませた。 「何にします? といっても迷う程の種類はありませんけど」 「蓮は? あっ、蓮君は?」 嬉しかった。 名前を憶えてくれていたことが、そして、さとみさんがつい呼び捨てにしてしまったことが。 昨日、帰ってから今日までに、何度か僕のことを考えてくれた、そんな勝手な解釈を僕はした。 「蓮でいいです。いや、蓮がいいです。友達にもそう呼ばれているし」 さとみさんは、何故かおかしそうにクスっと笑った。
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