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ガラガラと音のする、少し重くなった戸を開けて、奥でテレビを見ていたおばちゃんに「こんばんは」と声を掛けた。
「いらっしゃい」とテレビを見たまま答えたおばちゃんは、振り向くと、おや? という顔をした。
あらっ? 女の人を連れてきたんだ? そんな顔だ。
いつもはカウンターの端に座るのだが、おばちゃんのその顔が恥ずかしくて、テーブルの椅子に腰を下ろした。
置いてある残り三却のどの椅子に座ろうか、少し悩んださとみさん。
何故か僕の顔を伺いながら、隣の椅子を少しだけ離し、そこに体を忍び込ませた。
「何にします? といっても迷う程の種類はありませんけど」
「蓮は? あっ、蓮君は?」
嬉しかった。
名前を憶えてくれていたことが、そして、さとみさんがつい呼び捨てにしてしまったことが。
昨日、帰ってから今日までに、何度か僕のことを考えてくれた、そんな勝手な解釈を僕はした。
「蓮でいいです。いや、蓮がいいです。友達にもそう呼ばれているし」
さとみさんは、何故かおかしそうにクスっと笑った。
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